相談内容
福島県のA建設は、地方の大手土木会社で100%公共工事のAランク会社だが、公共工事の減少に伴い、売上は一時期の半分くらいに落ち込み、利益率も低くなる一方だった。
2代目社長は、同業他社を吸収合併しながら、体力をつけ乗り切る方針を立てていた。
その中で、昨年吸収合併したB会社のB社長を高く評価しており、専務に取り立て全てを任せたいが、社員が反発している。
これを一つにまとめて欲しいとの依頼だった。
経緯
早速、B専務と面談すると、
『経営には自信があり、任せてくれれば必ず業績を挙げる』
という。
しかし、どこか人間性に欠けるところが見受けられた。
そこで、先代から勤めている工事部長や古くからの社員と面接すると、B専務に不満を持ちながらも社長の意向には従わなければならないとの気持ちがあり、なかなか重い口を開かない。
B専務を嫌っており、社長に対する不満もある。
しかし、告げ口をしたようにはなりたくないようだった。
再建方針の変更〈 現体制を一新、旧体制に戻す〉
社員からじっくり話を聞き、同時にB専務との話を照らし合わせてゆくと、B専務の人間性の疑問点が出てきた。
そこで私は、社長に「B専務に問題がある」と進言すると、
「わかっている。それでもB専務に任せる。工事部長や社員の方が我儘だ」
と言って取り合わない。
そこで、いくら社長に説得しても無駄と思い、社員と共に力を合わせて会社を元に戻すことにした。
再建方法
全体会議を開きB専務の問題点が浮き彫りになるよう会議を進行していった。
社長はその会議とB専務の態度の豹変ぶりにやっと真実を理解した。
すると、自分の立場が悪くなると悟ったB専務は自ら辞職、続いてその仲間たちがそろって辞めて行った。
乗っ取りグループがいなくなると、残った社員は俄然やる気を出し、建設的な意見が出てきた。
早速残った社員全員で会合を重ね、意見を統一。
新しい体制を作り、社内改革に着手した。
再建への改革方法
A建設は、さすがに地方の老舗だけあって、経営理念や経営方針などが確立している。
しかし歴史が古い分、昔ながらの習慣から抜け出せずにいた。
そこで、セオリー通りに改革を進めた。
① 経営理念の再確認
壁に掲げてある経営理念を飾り物にしないで、会社の根幹をなすものにするため、改めて確認し合った。
② 経営方針の再検討
A建設では毎年、経営方針を定めていた。
そこで各年度の経営方針を分析、今日までの流れとその実行性を分析、反省を加えこれからの方針を作り直した。
③ 営業戦略
A建設は公共事業100%の会社である。
従って全て入札によって受注が決まるが、毎年、公共事業の発注額が減少している。
その中でいかに受注を取るか話し合った。
これについては、社長の政治活動的な営業センスにかかっている為、社長一人で無く、補佐や新しい営業マンを育てるなど、永続的な営業基盤を作ることとした。
④ 施工体制の確立
建設会社の基盤となるものは何といっても施工体制である。
同社社員のほとんどは実行予算見積もりと現場監理者で占められている。
実際の仕事は外注、下請けが施工するからでありいかに効率よく且つ人間的なふれ合いを持ってまとめていくかにかかっているにかかっている。
その考え方ややり方を再検討マニュアルとして全社員に統一をした。
⑤ 実行予算書の重視
同社は公共事業工主体の会社らしく、書類上は完璧な実行予算書を作っていた。
しかし、その予算と実際の施工結果のズレが問題だった。
つまり、予算通りに出来ない工事が多かったのである。
そのずれを仕方が無いで済ませてしまう甘さがあった。
- 工期の遅れを無くす
作業員の施工ミス、無理な工期、天候による延期などをいかに無くすか、話し合った。 - 利益率の低下を防ぐ
実行予算で決められていた利益率が結果として守られていない工事が多かった。結果論ではなく、予め決められた予算と利益率を徹底して守ることを再確認し、そのための対策を考えた。
「段取り八分 仕事二分」の実践を呼び掛けた。
⑥ 確実な施工
建設工事は、実際に現場で働く人達の施工能力によって大きく左右され、外注先によって施工能力のバラつきが問題となっていたので、いかに統一した施工体制を確立するかを考えた。
それぞれベテラン社員ばかりなので、
「そんなことは分かっている」
「仕方ない」
と思っている社員が多かったがその甘さを追究した。
再建方法のまとめ
- 売上利益率の追及、減価計算方法の徹底
- 各現場毎の実行予算の明確化、不採算工事の見直し、事前チェック
- 一般管理費の合理化 「ムダ・ムラ・ムリの削減」
- 人件費の能率給化、やる気の出る業績給制への移行
- ホウレンソウ(報告・連絡・相談)運動の徹底
そして対外的には、取引先との深耕開拓、アフターサービスの徹底、そしてメイン銀行との取引強化、金利減額交渉など、顧問税理士と財務内容をチェックしながら改革していった。
改革の結果
社内は明るいムードとなり、社長と社員の和は復活、一体となり危機を乗り越え、業績は回復した。
ただし、B専務の退社に伴い財務上の処理には時間がかかった。
合併時の財務諸表の改ざんなど詐欺的な要素が発見されたが、地域の公共事業を請け負う会社でもあり、極力穏便に済ませた。
再建コンサルタント・古川益一のコメント
私は昔、建設会社を経営していましたが、バブル時、急速成長のため、人材の育成が追い付かず、年商10億円に達したとき、赤字決算となりました。
当時、全て私が営業しており、特命工事で相見積もりも無く、確実に利益が出るのは当然ですが、なんと2,000万円の赤字になってしまいました。
その時の愕然とした思いは、未だに忘れられません。
詳細を調査してみると、予算管理の甘さ、請求のずさんさ、請求漏れなど、数千万円単位で抜け落ちていることがわかりました。
本来考えられないことですが、それまでの施工金額から急激に一桁多い工事金額となり、能力の限界を超えてしまったのでした。
急成長の会社が、突然倒産するケースがありますが、正にこのパターンでした。
その後、徹底的に改革、大手会社の建築部長を定年退職後、迎え入れ任せたところ、一気に確実に利益が出る高収益会社にすることが出来ました。
この経験は、予算管理と確実な施工の重要性を学んだことになり、それ以降、現在の再建コンサルタントの仕事になっても予算管理の重要性を徹底して訴えています。