相談内容
国税局と相続税未納による紛争を収めて、長期分割交渉をしてほしいとの依頼があった。
経緯
78才のHさんは都内の一人暮らしの女性である。
15年程前に父親の他界により、高額の相続を受け5階建てマンションを建設した。
この時仲介した不動産業者に相続税6,000万円を預けて納付してもらった。
しかし、その6,000万円をその不動産業者は、自社の借入金の返済に回してしまった。
完全な横領事件である。
Hさんは弟さんに相談、その不動産業者を問い詰めたところ、現金の代わりに手形を渡してよこしたので、止むを得ずその手形を税務署に納付した。
案の定、期日が来ても手形は不渡りとなってしまった。
国税局との争い
ここで国税局との争いが始まった。
依頼した弁護士は「手形が不渡りになってもその事情を分かって受け取ったのだから納付したことを認めろ!」との主張をしていた。
これに対し国税局は、
「理由が何であれ、現金以外は認められない」
と対立した。
この争いが10年も続いていたのである。
この時に私に相談が持ち込まれた。
解決方法〈話し合いによる和解〉
この状態で相談を受けた私は、
「こんな争いをしている内にストレスも重なり寿命が早く来てしまう」
と判断。
私一人で国税局に出かけて行き、担当官と相談をした。
私のお願いは
- 「残された余生を平穏に暮らせてあげて欲しい」
- 「税金は死んだ後に取って欲しい」
とのお願いだった。
「今までの裁判は全て取り下げるから相談に乗ってほしい」
と誠意を以ってお願いした。
結果
国税局担当者は、不動産業者に騙されて取られてしまったことを知っており、なんとか税金を無くす方法は無いかと一緒に考えてくれた。
Hさんを救うために、国税徴収法の条文をつぶさに見たりしたが名案はなく、私のお願いの「月額3万円」にすることで了承を取った。
大変親切な方だった。
これで取り敢えず一件落着したかに思えた。
しかし、これからはドラマのような展開が続いた。
その後の経緯
① 国税局担当者の暴言
その1年後、後任の担当者からHさんに電話があった。「今からすぐに訪問する」との事だった。
Hさんはきれい好きな方で「今散らかっているから掃除をするまで待って下さい」とお願いしたところ
「仕事だから豚小屋であっても行くんだよ!」
との発言だった。
②国税局長への質問状と結果
あまりの暴言に怒ったHさんは、
すぐ私に電話をよこした。
私は放置できないことと思い、事情をよく聞き、即、きちんとした書面にして国税局長に宛てて質問状を提出した。
“職員の教育についての質問”と題したものだ。
すると、すぐに担当課長から電話があり、来て欲しいとのこと。
すぐ行ってみると、担当課長から丁寧なお詫びがあり「元の3万円でお願いしたい。」との事だった。
当の担当者は既に外されていた。
≪隠し事の発覚≫
しかしこの時、帰りがけに、
「もしも他に財産が有れば仕事として差し押さえなければならないので宜しく」
と言うのである。
私はピーンと来て、すぐ聞いてみると、やはり老人ホーム入所資金として3千万円を証券会社へ預けてあるとのこと。
私は即、解約してしまうように強く指示した。
③国税局の差し押さえ換価
ところが、Hさんは私の意見よりも弟さんの意見に従ってしまった。
お金の預け先は小さい証券会社で、そこまでは分からないだろうと甘く見てしまった。
すると丁度1週間後、その証券会社に預けてある証券全額を差し押さえられてしまったのである。
こうなると、どうすることも出来ず取られてしまった。
④東京都の差し押さえ予告、換価
そうすると、今度は東京都が黙っていない。
滞納都税の3,000万円も3万円の少額で抑えていたものが「国税に払って都税に払わないとは何事だ!」という訳である。
もっともである。
ある地方にマンションも持っていることを調べられ、これを処分しろと迫ってきた。
止むを得ず、購入した時の1/5位の金額で売却、納付した。
以上が納税粉争の顚末である。
再建コンサルタント・古川益一のコメント
Hさんは一人住まいで家族間の争いが生まれないので深刻な問題にならなかったが、一歩間違うと全く違った方向に行ってしまう例である。
Hさんはその後、マンションの一室で元気で暮らしていられる。