相談内容
社長に対する報酬の所得税未納額が1,000万円を超え、誠意を見せずにいた為に税務署より国税局に移り、ついに主な取引先からの売掛金を差し押さえられることになった。
これを撤回させ、さらに経理を見てくれとの依頼を受けた。
経緯
愛知県のT工務店は裸一貫で起業し、夫婦仲良く大手建設会社の下請けをしてきた。
そして会社も安定した頃、経理担当の奥様が病気で他界された。
そのショックで自暴自棄となった社長は、経理のことなど頭から離れ、売上から自分勝手に使っていた。使ったといっても社員思いの社長であり、社員や下請け職人のためにお金を使っていた。
公私混同が税金滞納を招く
当然、出金伝票などはなく、公私混同となってしまった。
税理士事務所はその処理をするために、仕方なく社長の報酬を増額して出金することとした。すると社長の報酬は100万円以上になってしまった。
その結果、所得税を払えず、数年後には滞納額が1,000万円をオーバーしてしまった。
しかし手元にお金が残らないために罪の意識が無いのである。そうなると、税務署は誠意がないとして国税局へ回してしまい、国税局は、即売掛金の差し押さえをしてしまった。
私が行ったときは差し押さえが決定した後だった。
国税局から売掛金を差し押さえ
通常、差し押さえ対象になるのは、次のように即換金できるものである。
- 預金や売掛金
- 店舗などの賃貸保証金
- VISA などのクレジット代金
- 生命保険金や証券など
この内、売掛金を差し押さえられることになってしまった。
T工務店は、ほぼ大手メーカー100%の下請け会社であり、これを押さえられると受注はなくなり倒産に直結する。
国税局は「倒産止む無し」の結論を出してしまったのであった。
交渉方針
売掛金差し押さえ処分の撤回、分割納付猶予依頼
売掛金を押えられるとその時点で倒産となる。
相手は大手住宅メーカーであり、税金の差し押さえと同時に、取引中止になることは分かり切っていた。
何としても差し押さえを撤回させ、長期分割にて納付することを承諾させることとした。
交渉経過
そこで私は取締役となって、国税局へ差し押さえ解除の交渉に行くことにした。
紹介者の税理士はそんな交渉が成立することを信じられずに、「交渉風景を見ていたい」とのことで社長と 3 人で出かけた。
差し押さえの解除をお願いすると、担当官は差し押さえ理由を国税徴収法に拠ると言う。確かに国税徴収法には滞納した場合、換価つまり差し押さえなどにより徴収しなければならないとはっきり書いてある。
しかし、他の条項には「即差し押さえをしないで延命させることにより、より多くの税金の徴収が見込まれる場合は、差し押さえの執行を猶予することが出来る」と明記してある。
この条項を主張、一週間の猶予を頂き、今までの経緯と滞納してしまった理由をまとめた。
つまり「妻が突然亡くなり、どうしてよいか分からず滞納となり申し訳ない」との内容を誠心誠意綴り、今後必ず分割納付してゆく計画書を作成、再度訪問した。
話し合いにより差し押さえを猶予頂く
その結果、理解を頂き差し押さえを猶予、30万円の納付で了解を得た。もちろん、県、市も同じように減額交渉をしたことは言うまでもない。
納税猶予は基本的には1年間だが、それも話し合いである。
しかし、その話し合いに応じるも応じないも、全てこちらの誠意次第である。
内部改革による再建結果
社長の役員報酬はもちろん、社内のムダ・ムラ・ムリを徹底的に見直し、社内改革を行い、優良会社へと発展していった。
役員報酬の恐ろしさ
社長は表向きの経費だけでなく、何かと出費がかさみがちです。そこで単純に役員報酬を増額する場合が多いものです。
しかし、役員報酬から差し引かれる社会保険や累進課税による税率アップなどを考えると、報酬額の40%以上は差し引かれてしまいます。
つまり、100万円のお金を得るためには、100万円÷(1-0.4)=167万円の出費になることを、よくよく理解する必要があります。
この事例のように、自分への報酬が原因で税務倒産の憂き目を見ることがないよう、よくよく考えて決めなくてはなりません。
役員報酬に頼らなくても、社長の自由になる資金捻出は様々な方法があるものです。
法律と憲法の違い
法律は、国家が国民に対して、権利や自由を制限するためのもの。憲法は、国民の権利、自由を守るために、国民が国家権力に主張するものです。
憲法13条幸福追求権などを主張することにより、いかに法律で定められていても、公共の福祉に反しない限り、国民としての生きる権利が優先されます。