会社を設立しようと考えていても、どのようにして進めて良いか、わからない方も多いのではないでしょうか?
私は会社再建支援が主な仕事ですが、同時に若い経営者を対象に“経営の樹を育てる会”を主宰、東京、名古屋において勉強会(会場&ZOOM)を開いております。
その参加者の中には、経営者だけでなく、起業を目指す人や、事業を継ぐ人なども多く参加されています。その会場での指導経験を基に、設立から軌道に乗るまでの流れを説明します。
1.何のために起業するのか?目的は?
“会社経営は苗木を大樹に育てること”
なぜ、会社を経営するのか?を問われた時に、何と答えるでしょうか?
様々な答えがあるかと思いますが、私は「会社経営は苗木を大樹に育てること」と言うことにしています。
花は目立たなくとも、真っすぐに伸びる針葉樹のイメージです。
「風雪に耐え、地中にしっかりと根を張り、幹に栄養を送り、幹は枝分かれし、それぞれ葉を繁らせる」
そのような大樹です。
それでは、経営の樹のそれぞれを経営の部門に割り当ててみましょう。
栄養豊富な土壌深く張った根っこから一本の幹が現われ、3本の枝に分かれ、それぞれ葉を付け繫らせてゆきます。
根は経営理念の確立=会社設立の目的
経営の樹の全体を支える根の役割はとても重要です。
根本的な考え方として、どんなことがあっても絶対に揺らぐことのない信念、哲学が全体を支えます。
社長の考えと社員一人一人が「一心同体」となった組織は、どんな嵐が来ようともびくともしない強さがあります。
その基となるものが、経営理念です。
■経営理念の条件
- 誰の目にも明らかで、素直に受け入れられるものであること
- 夢とロマンに満ち、将来に希望を与えるものであること
- 社員に、自身と誇りをもたせるものであること
■経営の目的は、経営理念を実現すること
社員やパート、アルバイトの社員は当然のこと、外注先の人達までもが経営理念に基づいて仕事をしていただかなければなりません。
それが実現できている会社は、社長から末端まで一枚岩となり、底力となっていきます。
従って経営者の最も重要な仕事は経営理念を浸透させることであり、経営の目的そのものと言えると思います。
また、理念の浸透度が深まるにつれ、経営者の仕事量は反比例するかのように減少していきます。
その空いた時間を将来へのビジョンに当てることにより、ますます好循環となり「社長は居るだけの存在」になってゆくものです。
経営理念は本来時間を掛け、社員の声を取り入れながら成文化していくものですが、なかなかまとまらないのが実情です。
そこで、経営者自身が社員やお客様にどうしても伝えたい「事業へ取り組む心」としてまとめましょう。
幹は経営方針の決定=経営のやり方
方針は経営理念を具体化するための考え方と方向性です。
経営理念は土の中にあり見えませんが、経営方針は、見える形としての具体的な会社の将来を指し示すものとしてオンリー1を確立します。
経営方針は、針のように方向性を示すものです。
経営者の仕事への情熱が迸るようなオンリー1方針を作りたいものです。
■オンリー1は必ずできる
- 特徴を強調し、圧倒的なオンリー1を作る
・商品であれば性能、経済性、耐久性、商品構成などのオンリー1
・組織(販売力、信用度)などのオンリー1 - 特徴がなければ愚直にやり続けるオンリー1になる
・全員の心が理念により統一されたサービスを持ったオンリー1
・ビフォアー、アフターまで含めた、生涯サービスのオンリー1 - 徹底的なサービス、思いやりの心を持つオンリー1になる
・商品、サービスに限らず、どんなことでも徹底的にやり続けることもオンリー1になります。
オンリー1とは、他では真似のできないほどの特徴を持つことですが、取り立てて難しいことではなく、形(見えるもの)と心(見えないもの)の両面から考えれば、どんなことでもオンリー1になる要素はあるものです。
3本の枝はヒト、モノ、カネの調和
経営方針を実行、結果を出すためのやり方として、ヒト(組織)、モノ(営業)、カネ(財務)の3本の枝に分け、調和を取りながら育ててゆきます。
(1)1本目の枝 = 組織活性化計画(ヒト)
ヒト、つまり社員や関係する人々を、働きやすい組織を作って、その持てる力を100%以上発揮させる仕組みを作ることです。
(2)2本目の枝 = 営業収支改善計画(モノ)
モノ、つまり物販、サービス、製造など、オンリー1に育て上げるとともに、自ずと売れる仕組みを考えることです。
(3)3本目の枝 = 財務健全化計画(カネ)
ヒト、モノが十分に動くための血液としてのカネを円滑に滞りなく流すことを考えることです。
起業する方のほとんどは、一人で出発しています。
まずは、社長本人の能力で地盤を築き、大きくなるに従い、社員を増やしていくことになるものと思います。
従って、設立当初は3本の枝と言ってもピンと来ないものと思いますが、いずれ業務の拡大と共に、組織を作り、財務も充実していかなければなりません。
創業時には、3本の枝に分かれていなくても、将来このように成長するとイメージしながら経営をしてゆくことが大切です。
小枝と葉=業務マニュアル
計画を具体的に実行する方法として社員一人一人の持ち味を生かしながらマニュアルを作成することにより、社員の力を充分に引き出します。
マニュアルは、営業、作業、接待、サービスなど多岐に渡ります。まずは、社長自身のオンリー1とするやり方を社員にスムーズにスピーディーに教えるために作成することから始めましょう。
花を咲かすものは情報=関係者の善意
経営の樹全体に光と風により育つ環境を作り、花を咲かすものが、お客様や協力業者などの、周囲の情報(情けに報いる心)です。お客様からお客様へと善意の輪により広がります。
つまり、売上げが増え、会社が大きくなっていくことです。
良く売上げを伸ばすには、どうしたら!と考えがちですが、「売上げは上げるものではなく、上がるもの」です。
■土壌=経営者の品性
根の経営理念を根付かせ、栄養を送るものが、土壌となる経営者の品性であり、最も重要です。「経営は経営者次第なり」と言われる所以です。
品性とは、人柄と言われるものですが、一般に言われる人柄と経営者の品性は違います。
一般的には、単純に良い人、立派な人ですが、経営者の品性は、「人間性と経済性を両立できる能力」とも言えるもので、大変難しいものです。
「人柄も良く、会社も利益を上げている」その両立を求められます。
品性向上は、経営者に課せられた一生の努力目標として、精進してゆきましょう。
経営の樹を育てることをイメージ出来れば、具体的な方法を時系列に説明します。
2.会社の設立
会社は、3つの形があり、それぞれ特徴があります。
■個人会社
個人商店、個人事務所として一人、または家族で経営する形です。経営者の能力を活かし、楽しみながら生活の一部としてやっていきたい人向きです。
会社の規模を大きくする必要がなく、小規模で経営していきたい人なら、この形を選択しても構いません。
■合同会社と株式会社(法人化)
いずれも法人として出発する形です。
両者の違いは、責任の取り方でにあります。合同会社は、無限責任であり、株式会社は有限責任です。事業を大きく発展させたいなら、株式会社を選ぶべきです。
3.法人設立登記
■法務局へ登記
定款や登記申請書などが必要です。法務局へ相談すれば、丁寧に教えてくれます。
- 税務署へ事業開始届け
- 社会保険加入届け
- 労働基準局へ届け
- 業種により、許認可申請
以上は、全て事務手続きです。相談窓口に行き、指導を受けて自分自身で行うか、信頼のおける行政書士に依頼します。
【支援】法人成りする場合の注意点
個人経営から、合同会社や株式会社などの法人に成り代わる時、開始決算を行います。
これが、将来の発展を見据えてのものであるか、ありのままを作成したものであるかにより、将来に大きく影響を及ぼします。
これは、大変重要なことであり、税理士さんによっては、その指導方法が大きく違います。
疑問を感じたら、当事務所へ是非ご相談下さい。
4.会社スタート=経営計画書の作成
いよいよスタートすることになりました。
事務所や設備などそれぞれ揃えて営業を開始することになりますが、どうしても作成したいものがあります。
経営計画書は会社の設計図と言うべきものであり、自社の将来の姿とそれに行き着く道筋を描くことです。
■経営計画書の骨組み
計画書の書き方は様々ありますが、基本的な骨組みは次の通りです。
1.表紙
経営計画全体を表題として表します。
2.はじめに
現在の状況説明と将来へ道筋を表明、関係者の協力依頼を訴えます。
3.自社紹介
会社の内容、概要の説明。自社の強み、弱み、機会、脅威などをSWOT分析などで、客観的な分析により読む人の理解を得ます。
- 外観、内観、施設などの写真
- 社員の紹介と組織図
- 取引先一覧
- 工事実績
- 会社の特徴
など、訴えたいものを揃えます。
4.計画概要
「経営の樹を育てる」に沿い、各パーツを説明します。
- 経営理念:会社の根本的な考え方を確立。全社員が理念に基づき一心同体となって努力する姿をアピールします。
- 経営方針:理念に基づき、それを具体化するために目指す方向を示します。
- 部門計画:経営方針を実現するための方法を部門毎に説明します。
- 組織(ヒト)計画:社員の紹介と組織図など、それぞれ部署の役割や目標。
- 営業(モノ)計画:オンリー1戦略と営業展開方法など、自ずと売れる仕組み作り。
- 各営業の戦術や戦技、営業内容と仕入先、販売先一覧など。
- 財務(カネ)計画:長期計画と短期計画による収支計画と必要に応じた様々な財務諸表など。
5.おわり
「おわりに」と題し、「はじめに」と一対を成す形で締めくくります。
以上は、経営計画書として必要な骨組みです。これに特に訴えたいことなどを加えてオリジナルな計画書を作成しましょう。
【支援】起業するなら経営計画書は必須!
経営計画書は、大変重要なものでありながら、作成していない会社がほとんどです。
どうしても作らなければならないこととして「経営の樹を育てる会」で学んで下さい。または、当事務所へご相談下さい。
5.決算は必ず黒字にしなければならないもの
赤字会社の評価は著しく下がり、資金調達に大きな影響を与えます。例え一万円でもプラスとマイナスの差は、極めて大きく将来の経営を左右するほどです。
1期の赤字決算は許されても、2〜3期連続ともなると、特別な事情がない限り金融機関からは返済を迫られることになります。余裕をもった資金繰りをするには、黒字決算は絶対必要条件であることを肝に銘じましょう。
設立一年目の決算は黒字が至上命題
「会社を作って3年間は赤字決算でも良い」という人がいます。特に専門家からも聞くことがありますが、とんでもないことです。絶対に間違っています。
「赤字決算は将来性がない会社」「3期連続赤字は経営破綻会社」これは常識です。新しく独立して3期赤字を続けたら、ほぼ間違いなく起業5年説の倒産グループに入る会社です。
新しく起業した場合の一年間は信用力を証明するとても大事な一年間です。この一年間の決算内容により、将来への飛躍が保証されることを肝に銘じて下さい。
仮に赤字であっても経費を繰延資産として計上すれば、黒字決算になります。これは起業初年度に適用される制度です。税理士と相談して進めて下さい。
【支援】決算書はありのままを決算するべからず!
決算書は、ありのままを決算することではありません。
将来への道筋を立てるために必要な基礎となるものと考えなくてはなりません。もし税理士にそのような考えがなく、正確に計算しなくてはならないものと考えている先生ならば、当事務所にご相談下さい。
6.経営2年目以降
黒字決算終了により、2年目からは借入れもスムーズに出来ていよいよ貴方本来の良さを発揮した経営をしてゆくことになります。
あとは、土壌となる品性を磨き続けることにより、自ずと会社は発展してゆくものと思います。