経営者の仕事は「リスク対応業」
会社の平均寿命は、30年と言われていたものが、今や7年から5年と言われるほどに、その環境変化はすさまじいものがあります。
その寿命を延ばすためには、プロ経営者にならなければなりませんが、同時に会社の運命を左右するようなリスクに対し、常時防ぐことを考えていなくてはならない時代になりました。
現在順調であっても、必ず危機がやってくることを前提に、経営して行かなければならず、会社経営に不安を感じていれば、なおさら一日も早く、リスクに強い経営基盤を築いておかなければならないものと思います。
ドラッカーはこう表現しています。
「リスク」という言葉は、語源的には「今日の糧を稼ぐ」という意味のアラビア語である。経営者に取って「危険を冒す」ことと「今日の糧を稼ぐ」ことは同じ意味である。
さらに“経営者は常に危険を作り出し、より優れた危険を負担しようと試みよ”と前向きに捉えています。
つまり、経営者の仕事は「リスク対応業」と言えるものと思います。
まずは、リスクの捉え方について考えてみましょう。
【1】リスクの捉え方
1.リスクはあって当たり前
経営改革を行いながら進む以上、リスクはあって当たり前であり、不可欠なものと考えることにより、リスク発生は減少してゆきます。
2.リスクは感謝すべきもの
リスクが現れることに、1つの良いチャンスを与えて頂いたと感謝の心で受け止めることにより、新たな気付きを得られてゆきます。
3.リスク追及はその事案に当て、人には向けない
リスクの発生原因を人には向けず、仕事の仕組みややり方、そしてシステムの改善に問題が無かったかと考えることにより、社員はのびのびと能力を発揮成長してゆきます。
4.リスクを早く発見できる組織とシステム
リスクが生じそうになった時、その徴候が即トップに伝わるような組織づくりを心がけることは、社員間の絆を強くすることにつながります。
5.リスクの解決は部下に委ねる
社員にリスクを解決する喜びを与えることにより、自信がつき能力を磨いていくことになります。
このように、リスクは会社発展のためにプラスになることと捉え、全社を挙げ解決することを繰り返すことにより、社員一人一人も成長してゆくものと思います。
【2】リスク回避の組織運営
予想されるリスクに関する知識を得て、それを念頭に置きながら経営していくことにより、不必要なリスクを避けることができます。
契約書や帳票類の整備は当然のこととして、日頃からリスクが発生しても、即対応できる経営体質を作り上げる努力を怠らないようにしましょう。
◎リスク管理の基本、PDSサイクル経営
経営管理の基本は、PDSサイクルを早く回すことです。経営理念と方針に沿って、常にPlan(計画)Do(実行)See(反省)を早く回すことで、リスクの早期発見につながり、経営基盤が固まってゆきます。
1.Plan:計画
■長期経営計画(3~5年)と短期経営計画(1~2年)
経営計画書で作成した長期計画と短期計画に沿い、毎月微調整を繰り返しながら、より現実に則した計画に高めてゆくことができます。
■資金繰り計画(2~3ヵ月)
収支計画を円滑に進めるために絶対必要な資金の運用計画です。資金ショートが起きないよう、常時3ヵ月先までの計画が必要です。
但し、収支計画と資金繰り計画を混同する事のないよう自らを戒める必要があります。資金繰りで、収支計画を考えるほど危険なことはありません。
2.Do:実行
実行するための基本として
- 報告、連絡、相談の流れが確立できているか
- ムダ、ムラ、ムリの3ム追放運動が行われているか
- オンリー1、ナンバー1の意識が保たれているか
この3つの基本の上に立ち、経営されているでしょうか?
3.See:反省
計画と実行結果の差異を分析、反省、次の計画に役立てていきます。
PDSサイクルに沿い、毎月の会議等で前月の結果と差異分析、反省の上、改善をしながら翌月の計画を立てることを繰り返す中で、どこかに潜んでいるリスクを探しだし、対応を検討していくことになります。
このPDSサイクルを回し続けることが、リスク管理経営の基本です。
次に営業面に於いてのリスク対応を考えてみましょう。
【3】リスク回避の営業戦略
1.営業内容は多角化から多柱化へ
不況に備えるために多角化が叫ばれます。しかし、小企業の場合、新しいものへの取り組みには時間と費用がかかり失敗する場合が多いものです。
やはり最も会社に貢献している商品、サービスを中心にして、それに関連する営業品目に絞っていくこと、つまり多柱化が、確実な発展につながるものと思います。
2.顧客の分散化
売上高の割合が一社に集中すると、売り上げ減少となった場合など、その影響をもろに受けることとなり、経営そのものが左右され危険です。
日頃からバランスの取れた売上構成となるよう深耕開拓と感動開拓を心がけましょう。
3.売上原価率は守られているか?
原価は、常にチェックをしていないと自然に上がっていくものです。実行予算を徹底することにより、原価率は守られてゆきます。「サービスや製品の向上と原価低減の両立」を考えましょう。
営業不振に陥る会社の多くは、原価率に目を向けていない場合がほとんどです。
【4】リスク回避の財務戦略
リスクはいつ、どんな形で現れるかわかりません。
- 得意先の倒産により、回収が出来なくなった
- 仕入先とのトラブルで仕入れが出来なくなった
- 外部環境の悪化(新型コロナ禍など)により、売上げが激減した
- 社員が突然辞めてしまった
- 突然事件に巻き込まれた
など、挙げればキリが無いほど、リスクは待ち受けています。
その時、会社を救ってくれるのは現金以外の何ものでもありません。
潤沢な流動資産の確保と借入体制
会社経営に於いて資金が潤沢にあることにより、余裕をもった経営が可能になります。その金額は業種により一概には言えませんが、充分な現預金を確保しておくことが必要です。
そのためには、借入がいつでも可能となるよう、金融機関と良好な関係を築くことが大切です。これは、リスク管理戦略の最も重要な柱になるものです。
借入金に対する考え方を改めよう
よく無借金経営を称賛する声を聞きますが、果たして無借金経営は褒められることでしょうか? 現実的には、無借金経営のデメリットの方が多いように思います。
- 設備投資や商品仕入れが制約される
- 法人税などの負担が大きくなる
- リスクに備えることが出来ない
一般的な「借りたら返さなくてはならない」との概念を捨て、リスク対応上、最も必要な「カネの確保」のためであり、その利用代が支払金利であると割切ることが必要です。
ダム経営で潤沢な資金運営を
松下幸之助氏は、潤沢な資金を持つことを、「ダム経営」と表現されていました。
ただし借入先として、銀行などの金融機関以外はどんなに困っても借りてはいけません。親戚、身内、友人から借りると道義的責任として経営者の良心の呵責に耐えられない日々が待ち受けています。
更に高利貸しや闇金に手を出すと、ほぼ100%倒産に至ります。
金融機関と常時友好な関係を保ち、いつでも借入が出来る体制を作っておくことがリスク対応上安心を得られると思います。