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詐欺被害により手形不渡りになってからの再生再建|改革による再建事例

解体工事

依頼内容

愛知県のY社は、建設機材の卸売りの経験から、建設業としての仮設構築物の解体工事への多角化を計画。

私に対し建築工事業の経営管理責任者になり、県知事の建築許可を取得し、建設業の指導をしてほしいとの依頼があった。

経緯

特に断る理由もないので建築士資格の提供と、
経営管理責任者を引き受けた。

しかし数か月経過後、びっくりしたことに、多角化の為に入社した社員は詐欺師であることが分かった。

売上入金を支払先に払う代わりに、不渡りとなることが分かっている詐欺専門の手形を買ってきて廻し、その浮いた現金を持ち去る手形詐欺のやり方だった。

詐欺師

手形期日が来る間の6か月間くらいまで、取れるだけ取って逃亡するやり方である。

すぐに社長に進言、詐欺師を追い出した。

調べると被害金額は年商金額に達し、
手形も不渡りとなった。

本来なら完全に倒産のパターンである。

再建方針〈内外に表明しての再生再建〉

『倒産させてしまうか?』
『もう一回やり直すか?』 

社長に問うとなんとかやり抜きたいという。

そこで再建に乗り出した。

再建と言っても改革程度で立ち直れるレベルではない。

そこで社名は残しながら、生まれ変わらせる再生の考え方で再建する方針とした。

再生方法

不渡りを出した後だが、常識に捉われず次々と手を打ち、立て直していった。

「手形不渡りは銀行取引停止になっただけのこと」

ということである。

その時の再建方法は、次のようなものだった。

① 不渡り手形分の長期分割支払い

仕入れ先への不渡り金額は不渡り額金額を100回払いとし、翌月からは現金払いにて引き受けて頂いた。

仕入先はそれまでの約5ヵ月後の入金が翌月となり、それまでの不渡り分約5ヵ月分の1%が加算して入金されるので却って入金額が増えることになり納得して頂いた。

月間100万円の売上であれば、100万円+(100万円×5ヵ月×0.01)=105万円。

つまり、売上の105%が入ってくることになる。

金額の大きい仕入先に対しては、お客様からの振込銀行の通帳を渡し、仕入れ代金を先取りし、残金を会社に振り込んで頂く形にした。

② 借入金の返済

借入金の返済や金利支払いは事情を説明して当分の間、猶予を頂き仕入れ代金の完済後に返済を開始することとした。

保証協会の保証付き分は代位弁済をして頂き、1,000万円に対し、数千円程度の長期分割払いとした。

③ 延滞税金の長期分割納付

滞納税金納付は、当月発生分を期日通りに納付することを条件に滞納分を長期分割で了解を取った。

分割納付は1年以内の納付条件であるため、最終月を多くする12回払いとし、12か月目に更に12か月に分割納付する形をとり続けて、数年後に完納した。

④ 未払い滞納社会保険の長期分割支払い

社会保険等は一旦退会させて頂いた。

社長のみ残り、他は1年間に限り退会した。全員の社会保険未加入は難しいが社長が残り、期限付きなら認めてくれるものである。

社員はそれぞれ国民健康保険に加入、1年後社会保険に入り直すこととした。

⑤ リース物件の処理

リース代が払えないので、特に車両は売却、相殺後の残額を長期分割払いとした。

⑥ 得意先との取引継続交渉

継続的に取引している大手得意先は、手形不渡りと同時に取引が停止される。この事態に対しては、信用のある別の会社を通して取引続行をお願いした。

その他、得意先には不安を与えないために丁寧に説明し、以降の取引をお願いした。

⑦ 裁判相手との交渉

幾ら話し合いをしても、会社の方針で裁判によりけじめをつけなくてはならない場合もある

その場合は一切の反論を控え、相手の言い分に従った。

その代わり、返済方法については超長期分割支払いを押し通した。

⑧ 詐欺相手との交渉と取り戻す方法

詐欺相手はある暴力団関係の人物であり、すぐに行方不明になった。

詐欺罪の立証は難しく、ほとんど不可能に近い。

しかし、詐欺があったことの客観的な証明にはなる。

克明な被害届を出し、一応警察署に受け取ってもらうのである。

その文書により詐欺被害による経営難を正当化し分割交渉の理由にした。そして、詐欺被害金額を貸付金として将来の法人税納付に備えた。

つまり、経常利益額を貸付金放棄処理により、損失として計上、ごく少額の経常利益にした

詐欺被害額を法人税減額納付という形で取り戻していったのであった。

この方法は、私の再建マニュアルの手法として確立することになった。

社内改革と結果

業績回復

手形を不渡りとし、借金を返せなくなっても税金滞納による、差し押さえを受けても、倒産ではない。考え方や視点を変えれば解決できる

ものである。

このようにしてなんとか立ち上がり、落ち着きを取り戻すに従い、本格的な改革を進めた。

まず、同社は主に下請け的な受注が主だったが下請けから元請け企業への脱皮を図った。

次のように、社内改革は経営の基本に沿い断行した。

  1. 売上利益率の確保 利益の伴わない売上を圧縮、目標利益率を守った。
  2.  売上原価(仕入先、外注費、経費)を見直した。
  3.  一般管理費の削減

人件費比率35%(売上利益×0.35)を厳守、変動費のムダ・ムラ・ムリを徹底して追放、固定費は資産の処分、解約などにより削減した。

このようにして営業利益を確保、営業利益の50%に当たる未払い棚上げ分100万円を払っていった。

その結果、数年後には年商が1.5億円から6億円を超えるようになり、順調に推移していった。

その後

不渡り金額と未払い金額計8,000万円を、約10年で完済
取引先からは絶大な信用を得るようになった。

しかし、業績は回復したものの、社長自身の経営に対する姿勢が元に戻ってしまったのである。

経営危機を脱してからは公私混同になり、
仕入先に対し、未払い金が累積していった。

税金も滞納するようになり、赤字経営に転落してしまったのである。

経理担当も、一旦は夫人が退いたものが業績回復とともに経理に復帰、会社と家庭の区別がつかなくなってしまった。

社員も一旦は3人まで減ったものの、15人にもなり、株式会社としてそれなりに業界での地位を築いていたが、社長に嫌気が差した社員は1人2人と去り、最後は、お客様に迷惑をかけられないと強い責任感を持つ、数名の社員のみとなってしまった。

営業譲渡による解決

古川益一

このまま放置してお客様や仕入先に迷惑をかけることは許されず、残った社員で会社を設立、全てを譲渡し、新会社にて営業を続けることとし続行している。

残ってがんばってくれた社員には感謝しかない。

理念無き経営は滅びる

の典型的な事例である。

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